京都に春を告げる『都をどり』。
舞妓さんの世界に、この上ない魅力を感じてからというもの、舞妓や芸妓さんをじっくりみることのできる都をどりには毎年欠かさず足を運ぶのが私の恒例行事となりました。
コロナ前の「都をどり」からコロナ禍の「都をどり」、そして祇園甲部歌舞練場の令和の大改修工事が終わって、7年ぶりに本家本元で観覧することのできた「都をどり」。
舞妓の舞う「踊り」のことは、実はよくわかりませんが、昔から延々と受け継がれる舞妓文化、京都の花街文化には、何かしら引き寄せられ、興味が尽きることがありません。
現代にあって、その土地ならではの文化を引き継いでいく意志をかたくなに持ち、「型」を守りながら後世にそれをつないでいく…、
未来のことは想像するしかないけれど、それを人から人へ継承していく地道な毎日の繰り返し。
移り変わる時代のなかでも、この文化は後世に伝えていくべきだと気づき、信念をもって日々を紡いできた先人の人たち。
おそらく自分はもういない気の遠くなるような未来のことを想像しながら受け継がれていく「文化」というもの。
長い長い地球の歴史において、この時代はほんの一瞬なのかもしれないけど、幸いにも人間として生を受けて、その一瞬の感動を味わえる位置で生きているということ。
毎年恒例の華やかな舞台を観覧するたびに、「今ここで、これを観て心を動かすことのできる幸せ」というようなものを感じます。すごく大げさな表現になってしまったけれど。
人間の生きる意味とか、そんなものを、京都はいつも思い出させてくれるのです。
本物の舞妓さんがお茶を目の前で点てているのを観て、「こんなたくさんの観光客のお茶をすべて点てるのは不可能だろうな、あらかじめ決まった方(主要人物とか強力筋の方とか?)なんだろうな」とぼんやり感じたのを覚えています。
「都をどりは~、ヨ~イヤサア~~」のお決まりの掛け声で始まるステージ。
想像していた掛け声より少しキーが高くて、最後の「さぁ~~」がしり上がりに悲鳴に近い感じの声の出し方になっていて、少し意外な感じがしたのを覚えています。
花見小路の歌舞練場が大規模な耐震改修工事に入ったため、2017年からは、「京都芸術劇場 春秋座」に場所を移して開催されました。
京都造形芸術大学との共催ということで、芸大のキャンパスが会場となったため、学生たちのウェルカムアートがディスプレイされたり、グッズなどのコラボ企画もあったりして、それまでの都をどりとは一味違う演出がされました。
そして、コロナが猛威を振るい始めた年、2019年の都をどりは、場所を京都南座に移し開催されましたが、翌年から3年間、コロナ禍により中止となってしまいました。
2022年、満を持して3年ぶりに都をどりは再開されました。
場所は2019年と同じく南座。
祇園甲部の歌舞練場の改修工事はまだ終わらないのかな、長いな…と思ったのを覚えています。
3年ぶりに開催されたこの年の都をどりの題目は「泰平祈令和花模様(たいへいのいのりれいわはなもよう)。
コロナに翻弄され続けた長い期間を経て、少し明るい兆しが出始めた頃でもありました。
この長い3年ものあいだ、伝統を守り続ける京都の花街でも、変わらざるを得ないことは多々あったでしょう。
何を変え、何を守っていかなくてはならないのか。このことは、全人類に課された、共通に考えざるを得なくなってしまった課題でした。
都をどりは、四季の移ろいと京都の名所を組み合わせて踊りが構成されているのですが、ラストは、全員の舞妓・芸妓が出演する「総をどり」で幕を閉じます。
全照明ONで、会場は一気にまばゆいばかりの美しさに。
満開の桜の枝が垂れさがったきらびやかなステージで、色とりどりの衣装を身につけた舞妓や芸妓が、京都の春を飾ります。
毎回ため息の出る瞬間です。そして、「今年も京都の春に出会えてよかった、間に合ってよかった…」と安心するのです。
2023年4月、ようやく祇園甲部歌舞練場の大改修工事が終わり、都をどりは本拠地で開催されました。
京都の都をどりが、やっと帰ってきました。